中国・英国の大学に就職します

2022年11月に博士論文を提出したことを受けて、数ヶ月前に内定を貰っていた、Xi’an Jiaotong Liverpool Universityの専任講師オファーを受託しました。就職先について人に聞かれたときには、「Liverpool大学の上海キャンパス」という中々に不正確だがイメージしやすそうな表現を使っています。オファー内容はおおよそ以下のようなものです。

 

  • 給料は家賃補助など諸々込みで約850万円/年
  • 赴任先は蘇州(上海から高速鉄道で30分)
  • 大学の制度は全て英国大学式(教育、学務も全て英語で行う)
  • 授業負担として一学期2コマを担当(例えば、今学期の担当授業は、大学院向けのMedia and Cultural Policiesと、学部向けの研究方法論)

 

博士号取得前の無名研究者に対するオファーとしては望外のものだと思います(少なくとも私の分野では)。その一方で、「博士課程修了直後のearly career researcherとして最も充実した時期を、研究分野の中心地であるロンドンで、研究専念のポスドクとして過ごすべきではないか」とも考えましたし、今でもどちらの選択肢が正解か確証はありません。

 

そんななかで、就職先を選んだ理由を言語化するならば、英中の大学で教育と学務に携わることで、自分に足りない経験を積んで「次に繋げたい」と考えているからかもしれません。

英国の博士課程では、研究に専念できる代わりに、教育経験や学務経験を積む機会がなかなかないので、職務内容は研究の障壁や食い扶持というより積極的に求めていたものでした。今回は就活らしい就活もしなかったので、数年間力を蓄えたのちに、自分がジョブマーケットでどこまで通用するか試してみたいというのが率直な感想です。

 

何より、自分にはイギリスの修士課程で出会い、国際遠距離恋愛で五年間付き合ってきたパートナーが北京にいて、彼女と暮らすことが博士課程開始以来の目標だったので、就活の優先順位としては、第一志望が中国で、第二志望が英国という順番でしたし、両国と繋がりが残る就職先は理想的な場所な気がしています。

そんな好立地と好条件の研究職を掴むことができた自分が率直に誇らしいし、そこまで自分を導いてくれたロンドンの指導教官、同僚、友人には心の底から感謝しています。

 

 

もちろん、不確実性の高い海外大学に就職することを、三年後には後悔している可能性も大いにあると思っている。そこでふと思い出したのが、英国の博士課程に進学した2019年のこと。最低三年間は在籍が必要かつ毎年400万円弱の授業料の自己負担を強いられるKing’s College Londonに留学するとき、自分は二年間で支給が打ち切られる奨学金しか手元になかった。したがって、二年間のうちに新たなスポンサーを見つけなければ、留学を打ち切って手ぶらで帰国する他ない。それでも、どうしても留学がしたかったし、ロンドンでは日々全身全霊で生きていると思えるような何物にも替え難い充実感があり、何より楽しくて仕方がなかった。

手元にあるオファーと、CVに残った業績と、何よりも人的繋がりや経験など無形の財産とを見返せば、心の底から自分の選択が正解だったと思える。

 

だから、これから蘇州に向かうことも、自分にとって報われるリスクの取り方だと思いたい。