今の職場で働き始めて一年が経過した。博士課程を終えた直後で気が大きくなっていた自分は三年がかりの抱負を立てた。
https://yurimangasukisuki.hatenablog.com/entry/2023/03/05/003815
ただ、就職してからの環境が自分の想定と違っていたこともあり、ここらで振り返る方が良さそうだと思った。自分がこの一年間に達成したものの振り返りと今後の課題について書き記す。
(1)研究
ここまでで博士論文をもとにした査読論文が三本刊行されている。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10286632.2023.2244511
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10632921.2023.2227183
https://www.degruyter.com/document/doi/10.1515/culture-2022-0205/html
これは初年度の出だしとしては悪くない。博士論文をもとにした原稿は残り一本だがこちらも通せる雑誌を早く見つけたい。
他にも、誘われて参加した研究会から刊行された調査報告書や、シニアの教員が企画した編著へのブックチャプターの寄稿など、思った以上に多様な形式での成果が出ている。
https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-981-97-1499-5_4
その一方で、無視できない課題として、博士論文以外の新規プロジェクトについてまだ結果が出ていないこと および 共著・共同研究が後手に回っていること が指摘できる。
研究については、いろいろと新しい題材には着手出来ているのだが、ディシプリンや研究手法の習得という点では疎かになっており、サマースクールや研究会等々への参加を考えなければなるまい。
(2)教育
教育に関しては、就職前の目論見と現状との間で最も大きな開きがあった。こうした齟齬は、学生の立場から見える、海外大学教員の職掌やCV形成がいかに情報不足ゆえにズレていルカ示唆している。
当時の自分は教育ポートフォリオの幅を持たせるために積極的に担当講義や学位指導の機会に手を挙げようと思っていた。しかし、そんな積極性を発揮するまでもなく、研究方法論から専門科目まで十分な教育実績は積めているし、修論指導どころか博士課程の指導まで行っている(めちゃくちゃ学びが多く、やりがいがある)。
そして、来年初頭にはHigher Education AcademyのFellowshipも授与される予定である。
はっきり言って、教育に関してはどこに転職するにしても十分なカードは既に揃っていて、ここからの勝負は研究によって決まる。
重ねて思うのは、「アカポス就職のために教育実績を積みたい」と思うなら、非常勤講師やTAなどの職歴を学生・ポスドクの立場から狙うのは大変効率が悪く、さっさとフルタイムの専任教員になってしまった方が良い。見えているものや与えられる機会が全然違う。この点に関して、イギリスでポスドクをやらなくて良かったと自分の選択を肯定できる。
(3)ネットワーキング
ネットワーキングおよび学会参加についても進捗はあった。
今夏開催された研究分野を代表する国際学会に複数参加して、そこで「研究者同士の対面での社交」の持つ効果を強く感じた。セミナーや学校提携、共同研究といった形でこのネットワークを活用していく。
その上で、まだまだ与えられた機会を十分に活用しきれているとは言えず、社交のリハビリは必要だとも感じた。
さらに、国際学会以上に効果的なのは非公開・準公開くらいのシンポジウムだということもわかってきた気がする。留学中の遺産が利いて、複数のシンポジウムに参加する機会があったが、これは既存の繋がりを深めて踏み込んだ学術的議論を行う場として大変優れている。
今後も呼ばれるだけのプレゼンスを研究を通じて発揮するか、自分で企画するだけの研究費を勝ち取る必要がある。
幸い、まとまった額の研究費は取れたので来学期からは人をどんどん呼んでセミナー運営も軌道に載せていきたいところだ。
(4)研究費
現時点まで日本円で100万円、人民元で1万元(日本円200万円相当)を確保している。ペースとしては悪くないが、今後研究費のスケールを上げていくと、中国の研究者と競い合う現地の公的助成か日本の常勤研究者と争う100万円単位の民間助成の両方を狙うことになり、これは結構厳しい勝負になると感じてる。
また、自分で手を動かしてなんぼの博士課程の院生だった時分と違って、RA雇用や外注などある種プロジェクトリーダーとしての振る舞いが求められる立場になったので、いかに効率的に金銭を研究の進捗・業績に還元するか、「金の遣いみち」についても工夫が必要である。
(おまけ)
英国のラッセルグループ大学からテニュアポストで面接に2−3呼ばれた。それらに最終面接で落ち続けたことで、試行回数を増やすよりも能力・業績を高めようと思って公募に出すのをやめたのだが、まあ、面接に呼ばれるということは自分の方向性は間違っていないということだと思いたい。
学会参加や出張の副産物として、航空会社のマイルやホテルの会員ステータスが積もってきたのが地味に嬉しい。JGC Four Star, Accor Platinumあたりが現実的な目標になりそう。