素晴らしい助言

自分が一番迷走していたのは、英国での修士課程を終えた後、博士課程でロンドンに戻ってくることを心に期していたものの、奨学金の目処が立たず国内大学向けのフェローシップ(学振DC1)にも落ちた一年間だった。

そんな折、関西の大学にいる研究分野が同じ研究者から受けた助言が今でも本当に役に立っている。それは自分の研究の位置付けや身の置き場に関するものだった。

自分の当時の研究テーマは「文化政策の歴史」というもので、所属学科が地域文化研究ということもあり、人文学の歴史研究として自分の研究を紹介して、競争的資金の応募区分なども決めていた。それに対して、先輩から「君は修士課程でも文化政策を研究してきたけれど、それは歴史研究ではないし、歴史学分野では本流の人に絶対に勝てないから、歴史研究をやっていると思われない方が良いよ」と断言されたのである。

「このままでは勝てない、誰かに負ける」という指導は端的にリスキーだが、その危険を犯してでも断言してくれた先生に深く感謝している。

この助言が特に有益だったのは、自分の身の置き方に関する基本的な考え方を提示してくれているためである。

歴史学研究を続けたら、自分は歴史学の研鑽を積んできた人の下位互換に終わる。

自分なりの定義では、下位互換の研究者とは「いてもいなくても良い研究者」である。そして、独自のテーマや論点を有しているくらいではその状況を脱することはできない。プロの研究職の存在価値の証明としては不十分だと強く信じている。

着想やテーマ探し自体は凡人にも出来るし、素晴らしいアイデアを持っているひと全てに椅子が用意される業界はない。では自分はどこでなら勝てるのか、積極的な価値が生み出せるのか、フルメンバーとして必要とされるのか。助言を受けてからそれをずっと考え続けている。

負けること、劣っていること、「下位互換」で終わることへの危機感を共有している人とは深く分かり合える。