ロンドン大学博士課程の指導教官

自分がKing’s College Londonで博士課程に在籍していたときの指導教官のことを振り返る。
人格も素晴らしく、研究も尊敬できる、自分がこれまで会ったなかで最高の研究者の一人だと断言できる。
英国の人文系大学院はなんだかんだで指導教官の及ぼす影響は大きいので、その選択は大事だと思っている。
指導教官を選ぶ際には「大学院から留学を始めた非英語圏出身で海外大学に就職していること」「英国に関する研究で博士論文を書き、その後英国外の地域を対象とした研究を行っていること」に近しさを感じて師事することを決めた。
これは人生で最良の意思決定の一つだった。
四年間の指導の中でありがたかったことを思いつくままに箇条書きにする。
  • 博士課程一年目の審査を通過した段階で共著論文に誘ってくれたこと(最初の一本の業績が出来ると安心できるし、共著の進め方、原稿の磨き方、査読対応など、研究論文執筆に関するノウハウを学ぶことができた)
  • 月一回の面談の前に議題を、面談の後に議事録を作成させられたこと(振り返りと要点整理の技術が身に付いた。幸い自分には縁はなかったが、言った言わないの問題も回避できるのでハラスメント対策にも有用と思われる)
  • 留学初期の段階から、指導教官自身の「生煮えの原稿」を渡され、コメントを求められたこと(凄い研究者でも中途の原稿は完璧ではないことが分かり、執筆の心理的ハードルが下がった。コメントを通じて微力ながら貢献ができることで研究者としての自信がついた)
  • シンポジウムや競争的資金、他大学での講義など、外部の機会を積極的に教えて、参加を勧めてくれたこと(特に、誘われて始めたカリキュラム調査プロジェクトは結果的に現職就職の決め手になったと思っている)
  • アカデミア就職に関して非常に親身に相談に乗ってくれたこと(国際恋愛のパートナーがいるため、海外の大学で絶対に就職したいという事情を踏まえて、相当に踏み込んだ、なおかつ実践的な指針と戦略を授けてくれた。ブログでは書けないけれど)
  • 暴走しそうになったときに手綱を引いてくれたこと(特に、進捗を重視して手続きが粗くなったり、実現可能性が乏しいことを始めそうになったときに)
 
それにしても、指導教官の「競争原理や業績主義でしばきあげるようなことは全くなく、配慮があり親身で、それでいて厳しい現実は必ず直視させ、甘いことは言わない」あのスタイルは自分ではまだ到底真似できそうにない。
今思い出したのは、公募書類を出すときに「駄目で元々と思って気楽にやってみますわ〜」的なことを言っていたら、「駄目で元々と思うなら見送った方がいいよ。書類作成の時間が勿体ない。出すなら通すつもりで、最大限クオリティを上げる努力をしよう」と返されたこと。
自分が来月から博士課程の指導に携わることになったので、なんとなく指導教官との思い出が思い起こされた。自分はつくづく運が良かったし縁に恵まれた。