休暇のチューニング

文化政策・文化産業(クリエイティブ産業)の研究者をやっていて良かったと感じるのは、人文文化への関心と政治経済への関心との両方を職業として追究できることである。むしろ、優れた文化政策・文化産業研究者は、政治経済を分析する醒めた頭脳と芸術文化への頭抜けた感度を両立させている。

自分は従来、政策分析への関心が高く、あまり作品そのものの話をしないことを指導で再三指摘されたのだが、最近では歳のせいかどんどんと芸術文化そのものへの関心が高まっている。Konemannの図録とか、Royal Opera HouseBlu-rayBOXとか漁ってしまっている。

ただ、この方面を突き詰め過ぎると三流の人文研究者に終わってしまうので、公共政策学や文化社会学の理論を読み込んで、次の研究に向けて脳みそを作り替えなければいけない。まあ、それは休暇明けにやるということで。

 

 

https://video.unext.jp/book/title/BSD0000676978

カボちゃ先生の新作長編『三角関係の壊し方』。短編における潔い省略も良いのだが、じっくりと背景や経緯を掘り下げる長編は読んでいて心が洗われる(と言うには荒んだ内容ではあるのだが)。誰も悪い人がいない、劇的な悪意がない、それ故の切なさ。

 

 

https://www.imdb.com/title/tt1865505/

アイルランドのアニメーション映画 Song of the Seaも大変に良かった。Cartoon Saloonジブリやアードマンのように、スタジオとして今後も全作品追い続けていく価値がある。別世界に飛ばされた。

 

高階秀爾『近代絵画史』、青野利彦『冷戦史』はともに、新しい知識を獲得することよりも、既知の点と点を繋いで全体図を作り上げる語りの巧みさに舌を巻いた。力量にある学者の仕事だ。

 

John Wick: Chapter 4。一向に精度が上がらないインチキ日本描写が、ハリウッドから見て日本がいかに経済的・文化的・政治的に「とるに足らない国」であり続けたかの反映だと思うと悲しくなったが、映画としてはゴキゲンだったのでそれでも良いかと思えてきた。

 

タロットカード殺人事件』は個人的には辟易させされる描写が目立ち、初めて倍速で映画を流した。BBC Filmが製作に携わっているのが意外だった。

 

サルトル実存主義とは何か』、アーレント『人間の条件』なども再読したのだが、研究者としての関心や姿勢が定まってきたせいか「使える箇所、関連する箇所」を探してしまっている自分を発見した。何者でもないうちに行うべき読書体験もあると感じた。